物語

昭和初期、日本。
文明の光に照らされることで、より影がその濃さを増していた時代。

身寄りのない青年・空穂 基は、
今は亡き祖母の縁者、緒方の家に世話になり、
書生の真似事のような暮らしをしていた。

幼い時から、心の中に奇妙な空虚さを抱える基が、
唯一、憩える場所…それは彼が21の誕生日に見つけた小さな骨董屋だった。

仁王坂の途中、小さな小道に入って少し行くと、
店先に柳がしなだれた、小さな骨董屋がある。
それが九十九堂だった。

いつも客のいない、それどころか主の姿すらないその店先に、
基は屯するようになるのだが、
ある日を境に奇妙な出来事に巻き込まれていくようになる。


第壱話「香炉」
夜毎夢に現れる獣に怯える兄と妹。
死んだはずの父親の幻影、その正体は?


第弐話「人形」
繰り返し見る夢と封じられた記憶。
揺れる影に、男が見出した理想の女性像とは?


第参話「刀剣」
その刀は切り切られるためのもの―
肥大していく欲望と衝動に駆られた男の末路とは?


第四話「影絵」
狂気に支配された男と、虚ろな心に幻影を住まわせる男。
それぞれが選んだ選択の結末は?


いわくありげな骨董に導かれ、心の闇を引き出された人々の悲喜劇を連作オムニバスで描くモダンホラー「語り部シリーズ」。

「九十九堂奇譚」、「陰」、「雲」、「風」に続く新作書き下ろしは、エロスとバイオレンスをまとった再生の物語「空」。